人間関係のための救急蘇生法 C P R -対立の予防と解決のための7つのステップ

人間関係のための救急蘇生法

-対立の予防と解決のための7つのステップ

Step 3 対立をチャンスに変える

 ステップ3は、思いやりに基づいた対立解決の最も重要な部分である。 この章で、これまでのステップで出てきたすべてのスキルを行動に移してみることになる。 ここでは、人としての相互理解を作り上げ、あなたと対立関係にある人を、 支配的な人とか過剰に騒ぎ立てる人とかいった固定的で否定的なイメージ以上のものとして理解することに焦点を当てる。 この態度の変化は、人に対する思いやりを育むことを通して成し遂げられる。 思いやりは、人を、現実的で複雑で究極的には価値あるものとして理解することを可能にする。 この重要な要素がなければ、あなたはその人を、人を傷つけたり人に面倒を押し付けたり、人を疲弊させようと躍起になっている敵対者として見続けることになるだろう。 そのために人間関係は深まらず、結果的に対立が生じるだろう。
 あらゆる問題には3つの側面があると言われる。自分の立場、相手の立場、そして真実である。 しかし、人間関係の救急蘇生法 C P R では、少しの間「真実」や出来事の事実を脇に置き、表現されていないものを探求する。
 どうして人が、何かについてそのような強い感情や意見を持っているのかを理解することで、あなたは解決への道を実質的に進むことができるのである。 相手が物事を違うように見ているということを知るだけでは十分ではない。 「イエスと言わせる Getting to Yes(邦訳:ハーバード流交渉術)」の著者、ロジャー・フィッシャーとウィリアム・ユーリーは、人の見解の持つ力を共感的に理解し、 その人がそれを信じている際に抱いている感情的な強さを感じなければならないと言っている。
 ステップ1が、あなた自身を武装解除することに関するものだとしたら、このステップは、人の反射的な行動を武装解除することに関するものである。 ステップ2の要素を使うことで、あなたは権力争いに関わるかわりに、その人を理解しようと努めることになる。ここではあなたは予想外のことをする。 つまり、あなたの強さでもって相手の強さに向かうのではなく、相手が感じていることやその感情の背後にある理由を知りたいという心からの願いをもって、 相手に出会うのである。典型的な対立は、次のような攻撃で始まるかもしれない。

 「あなたは間違ってる!こんなふうに・・・、あなたはいつも・・・、ほらまた始まった・・・、いつそうするっていうの・・・!?  あなたはそんなに・・・!」

 こんなふうに言われたなら、当然あなたは攻撃し返そうとし、言葉での応酬が続くことになる。 人の感情によって支配されてしまう代わりに、あなたは反応するやり方を選択する。 選択肢のひとつは、誠実な関心をもって応答することである。
 たとえば、「何かがあなたを苦しめていることはわかるよ。何か僕がしたことに対して怒っているんだね?  もしそうならば、聞かせてほしい。」といった具合にである。
 ここであなたは、その人の行動を引き起こしている表現されていない感情、ニーズ、問題を見出だす。 これは、あなたが降参したり、譲歩したり、過失を認めることを意味しているのではない。 むしろ対立しているエネルギーを、チャンスのエネルギーに変えることを意味しているのである。
 怒りは、それを焚きつけるものを必要とする。 もしあなたが火種となることを何も起こさなかったなら、怒りのエネルギーはすぐに消え失せることだろう。 これは、人を防衛的にさせずに怒りと苛立ちを放出させるくらい十分にあなたが強くなるべきだということを意味している(Step 2 にある怒りを受け止めるスキルを使うことを思い出しなさい)。
 批判的でない話し方や誠実さ、開かれたボディランゲージを用いて対話を始め、質問によってその人が経験していることを引き出しなさい。

 たとえば、「このあいだ会ったときに、あなたの気分を悪くさせるようなことを私が何か言いましたか?」とか、 あるいは「最近あなたへの留守電メッセージに返事が戻ってこないように思います。私たちの関係は大丈夫かしら?」といった具合にである。

 相手が答え始めたら、あなたはその出来事がその人にどう影響したかを尋ねることができる。

 たとえば、「先週あなたの誕生日を忘れてしまったことをどう思っていますか?」とか、 あるいは「あなたの容姿について私が言ったことが、あなたの気分を悪くさせていると思いませんでした。それについてどう感じていますか?」といった具合にである。

 もしその人にとって感情を表現することが難しいことであるならば、あなたはその人に怒っているのか、悲しいのか、恐れを抱いているのか、直接的に尋ねることができる。 それから「あなたが感じている怒りについて、もう少し私に話してください。私は心から聞きたいと思っています」というように、もっと情報や感情を引き出すためのオープンエンドの質問をしなさい。
 その目的は、怒りや嫉妬といった表面上の感情の奥底にあるより深い問題や感情を引き出すことである。 あなたは、なぜその人がこの感情を感じているのかを探求しようとしているのである。 しばしばその底にあるのは、ありのままの自分を受け入れられていない、愛されていると感じられない、十分よくみられていない、あるいは大切に思われていないといった悲しみや恐れである。 実際、なんらかの受け入れられたいというニーズの周りを、多くの問題がぐるぐる回っているのである。
 対立は、人とつながっていると感じられない、あるいは所属していると感じられないと思うときによく起こる。 受容のサブカテゴリーは、承認、同意、理解、注目である。 人間関係の中でこれらがいつも満たされているならば、夫婦、家族、友人、仕事のいずれの人間関係であっても、人は自分の価値を実感し、理解されており、受け入れられていると感じる。 人間にとっての受容のニーズは、原始的なものである。 石器時代に戻れば、集団から追放されることは、死を確実に意味していた。 人が単独で野生の世界で生き残ることは実質的に不可能であった。 妥協とか対立を避けるような行動特性は、生活の一部であったと思われ、したがって、人は自分の種族を離れることはなかったであろう。 今日、私たちは、仕事を解雇されたり離婚したりしたとしても、一人で生き延びられるようにみえる。 しかしながら、アウトサイダーになることや、何かの一部ではないという原始的な恐れは、私たちの中に今も根深く住み着いており、脅かしを受けるとすぐに表れてくる。 そして、結局何かあるいは誰かに属さないと、私たちは怒りや悲しみ、あるいは恐れに満たされてしまうのである。
 したがって、ひとたび人が傷つきやすくなってこれらの核心的な問題が明らかになると、 その人はあなたをもっと信頼するようになるだけでなく、あなたに対してもっと話すことができるようになる。 この時点で、対立からチャンスへの段階的な変化が起こるのである。
 この傷つきやすさのレベルに到達するためには、その人が心を開けるよう十分な安心を与えるという、あなたの側の関わりが必要となる。 殊にあなたが対立を扱いなれていないとしたら、これはあなたにとって容易なことではないだろう。 試行錯誤を必要とするかもしれないが、練習すればあなたはやがて怒りの底にある本当のメッセージを聴くことができるようになるだろう。
 あなたは激しい感情が向けられる可能性に対して、準備しなければならない。武装解除して無抵抗のままでいることに集中し続けなければならない。 脅かされるかもしれないし、反撃したくなるかもしれないが、あなたのボディランゲージは開いたままにして、脅威的でない態度を保ったままでいなさい。 またこのプロセスに対して忍耐強くあらねばならない。その人が自分の怒りを発散させるために、しばらく時間が必要かもしれない。 しかしもし、その人がそうであっても、あなたは宥めたり、避けたり、攻撃したりしようとする衝動をこらえなければならない。 たとえ批判や非難に満ちたものであっても、その人の激しいエネルギーをじかに受け止めるようなことはせず、それが通り過ぎるに任せなさい。
 人の対立の周りにある深い問題を探求する前に、その人の怒りがいかなるものであろうとも、その表面にある問題を認めることは極めて重要なことである。 もしこのステップが見落とされれば、その人は怒りに執着したままとなり、それを深めていく機会が失われる。 あなたが心から耳を傾けていることに気が付くまで、繰り返し認めることが必要かもしれない。 あなたが敵対しているのではないと感じれば、その人は落ち着き始め、怒りを鎮めることだろう。 ひとたび武装解除したならば、あなた方はともに、怒りの底にある悲しみや恐れといったより深い問題を探求することが可能となるのである。
 人が心を開き、人として持っている心の底に横たわる恐れや痛みを分かち合うにつれて、思いやりが必然的に生まれてくる。 それは、誰もが持っている感情である。思いやりが生まれると、避けたり、罰したり、報復したいというニーズはなくなり、互いにとって有益な解決策にむけて取り組みたいという願いが生まれてくることだろう。
 たとえば、もしあなたが歩道で、金切り声をあげて卑猥な言葉を叫んでいるホームレスの男のそばを通り過ぎたなら、 あなたは彼をひどい酔っ払いと見て、ただ通り過ぎるだけかもしれない。 しかしもし深く理解するために時間をとったら、彼が火事で家族を失ったということが明らかになるかもしれない。 悲劇的な出来事に対処できずに、職を失い、アルコール依存に陥ったのかもしれない。 あなたがこの男の話のまるごと知ったなら、あなたはおそらく確実に彼に思いやりをもつことだろう。

対立をチャンスに変える パート1

 この最初の部分では、あなたが率先して、人が深い感情を見せられるくらいに心地よい空間を作り出すことを求めている。

 次に示すのは、このプロセスの例である。

キム(穏やかなまなざしと関心を表す手のジェスチャーを使いながら、最近の仕事の状況がジャックにどのような影響を与えているのかを誠実に尋ねることで会話を始める) :ジャック、ジョーンズ氏が、私の顧客になると契約したことについてどう思っているの?

ジャック:どう思うって! とても怒っているよ!  私はジョーンズ氏を顧客にしようとして2か月間がんばってきたんだからね。 彼は私に契約は確実だと言い続けていたんだ。 それなのに、君が入ってきて、私から彼をやすやすと盗んでいったんだからね!

キム(彼の怒りを認め、ジャックが言ったことを言い換える) :私は、あなたがこの状況についてなぜ怒っているのか十分理解できるわ。 2か月間がんばってきて、すでに確実だと思っていた契約が、 そうではなかったということを知ることは、つらいことだと思うわ。 尋ねるのも悪い気がするけど、あなたは私に対してどう思っているの?

ジャック:君とジョーンズ氏のどちらが、僕をより怒らせているのか、僕にはわからないよ!

キム(開いた姿勢を保ち、オープンエンドの質問をすることで、感情や問題点をもっと引き出そうとしながら) :ジャック、話を続けて。私の行動があなたにどんな影響を与えたのか話してほしいわ。

ジャック:ジョーンズ氏と僕はうまくいっていると思っていたんだ。 僕たちは仕事関係の上で、互いに信頼感と正直さを持っていたと信じていたんだ。 でもそうではなかったらしい。そしてキム、君と僕は古い付き合いだ。 僕は、僕たちは友だちだと思っていたんだ。お互いにこのようなことをしない友だちだと。

キム(聞いたことを言い換えながら):信頼とか裏切りの感覚が問題になっていることがわかったわ。

ジャック:僕が裏切られたと感じているというのはまったくその通りだ!  僕は君とジョーンズ氏を信頼していたのに、君たちは2人して僕をだましたんだからね!

キム(再び彼の怒りを認め、怒りの下にはあるのは信頼感の欠如であることを知り、信頼の周りにある問題を探ろうとしながら) :あなたの怒りや、信頼が壊れた経験についてはわかったわ。 誰かを信頼することができるってことは、とても重要なことよね。 だからあなたとの信頼をもう一度取り戻したいの。あなたにとって信頼が何を意味するのか聞いてもいい?

ジャック(キムが言い訳をしたり、抵抗したりしていないことに気づき、穏やかになる) :もし君が誰かを信頼できないとしたら、人間関係に関する限り、そこには何もないということになる。 もし僕が誰かを信頼することができないなら、人生はとても空虚で寂しいものになってしまうだろう。 僕にはひとりも友だち達がいないということになってしまうからね。

キム(悲しみや恐れというジャックの深い痛みを理解し、思いやりを感じるにつれ、 身体をかすかにジャックの方に傾けながら、彼女が聞いたことを認めた。) :あなたがどのように感じているか理解できるわ。 もし私たちが誰かを信頼できなければ、人生はとても寂しくて孤独なものになってしまうでしょうね。 私の行動がどんなにあなたを深く傷つけ、私たちのあいだに壁を作ったのかをわかったわ。 ジャック、あなたは私にとって同僚以上の存在で、良き友よ。私たちの関係に信頼を取り戻したいわ。

 この短い例は、3つの重要なポイントを含んでいる。 つまり、人の感情や深い問題を認めること、何がその人の感情を駆り立てているのか探求することによってその人を理解すること、 人としてその人と結びつくことによって思いやりを育むことの3つである。 キムが自分自身を防衛せず、ジャックの顧客と契約したことに対する彼女の動機を正当化しなかったことに注目しなさい。 彼女は、彼の激怒に直面したときでも、彼を理解しようとし続けた。 人間関係のための救急蘇生法 C P R のプロセスの全体像を把握するのために、付録Cに2つの事例がある。

 残念なことに、・・・のときがある。

 対立している人が、あなたがどんなに誠実であっても心を開かない時がある。 もしその人がどのように感じているのかを分かち合うために何度か近づこうとしても、 「私は大丈夫!」と答えるなら、もし後で話そうと決心したなら、いつでも私はあなたのためにいることを伝えるほかにすべきことはない。 この人は過去に傷つき、たぶん自分にとって良くない形で感情を利用されたことがあり、 感情を明らかにすることを安全だと感じてないだろう。 この場合には、あなたは一貫して敬意ある行動を示すようにする必要がある。
 それから、感情的に閉じこもり、人間関係を放棄してしまう人々もいる。 こうしたことが起こったとき、あなたは喪失による感情的な痛みを経験するかもしれない。 しかし、あなたは自分がその問題に対処し、人間関係を維持するためにできることはすべてしたことに気づきなさい。

対立をチャンスに変える パート2

 この2つめのパートは、あなたがさらに深く人を理解できるようにするものである。 ひとたび聞いてもらえていると感じれば(その人の態度の変化によって見分けることができるだろう)、 あなたの感情やニーズをその人と分かち合うことができるようになる。

 人が経験や感情を述べた後に、この状況でその人が必要としていることについて尋ねなさい。 たとえば、「ジャック、あなたは今何を必要としている?」といった具合にである。 ジャックは顧客であるジョーンズ氏が必要だと言うかもしれない。 何かを欲しているという表面的な答えの中にある深い理由を探求しなさい。 なぜその顧客がそれほど重要なのか、彼から引き出しなさい。そのニーズの下に何か感情があるのか見てみなさい。 彼の答えは、退職者住居の頭金の支払いに口座から手付金を引き出す計画でいたのに、今や彼の夢が忽然と消えてしまったということなのかもしれない。 彼が深い理由や疑う余地のない悲しみを表現するのを聞くことによって、あなたの理解は深まり、彼に対する思いやりが深まることだろう。
 人がニーズやその理由を十分に表現できたら、その人の返事をもう一度言い換えることによってそれを認めなさい。

 たとえば、「ジャック、あなたが心を開いてくれたことに感謝するわ。 私にはジョーンズ氏との取引の重要性が分かっていなかったわ。 今私は、その手付金がタホ湖でのあなたの夢の住処につながっていたことを理解したわ。 この契約を失うことがあなたをどれほど失望させ、怒らせたのか、そしてあなたを悲しませたのか、十分理解することができるわ」といった具合にである。

 対立の根っこには、悲しみや怒りがあることが多い。あなたがその根に到達していないような返事を聞いたならば、それを引き出すようにもっと探るような質問をしなさい。
 ニーズが満たされないとき、人の感情が引き起こされる。したがって、人が自分のニーズを表現したときには、その人にできるかぎり具体的に述べてもらうことが重要である。 曖昧な返答は、さらなる対立につながる混乱を作り出す。人はしばしば自分が望んでいなかったり、必要としていないことを述べる。 たとえば「私は軽く見られたくない」と言う。しかしこの言葉だけでは、「じゃあ、あなたは何を必要としているの?」と聞き手は疑問に思ったままである。 具体的にこの人がどう関わってもらいたいのかがわからなければ、聞き手はその人を避けるか、あるいは関わる方法を把握しようとするかのいずれかになることだろう。
 多くの人が自分が必要としていることを表現するのに困難を覚えるので、自分のニーズを具体的な行動の形で述べるよう手助けすることは、とても役に立つ。 「私は軽く見られたくない」は、こう言い換えられるだろう。「どのようなものであろうとも、私は会社の運営方針について決定がなされる前には、意見を求められたい」といった具合にである。 具体的な行動を示す言葉を使ってニーズについて話せば、聞き手だけでなく、話し手にも明瞭となる。
 人が必要であるというものは何であれ、あなたが提供できるものかもしれないし、あるいはできないものかもしれない。 もしあなたが叶えることができないものであったとしても、または、罪の意識を感じたとしても、あなたの望むことは何でもしますよと言って妥協したりしてはいけない。 けれども、あなたは言い訳をせずにそのニーズに耳を傾け、それを認めることはできる。 たとえば、「僕たちの関係の中で、君は無視されていたと感じていたんだね。僕ともっとよい時間を過ごしたいと思っていることがわかったよ」といった具合にである。 ステップ5「解決策を見つけ出し、その先へ」では、互いのニーズを満たす方法を見つけることになる。
 なぜその人はそんなふうに感じるのかその理由が明らかになるにつれて、もし立場が入れ替わったら、どのように感じたり応答するだろうかと自分に問うてみることができるようになる。 自分も同じように反応するだろうか? かつて自分も同じように反応したことがあっただろうか?  ひとたび、双方が武装解除すれば、あなた方は互いの問題を解決するためにパートナーとして励むことができるようになる。
 対立解決のための多くの時間は、なぜその人はそんなふうに感じているのか、その理由や、満たされていないニーズが何なのかを明らかにすることに費やされるだろう。 まさに、これから知り合おうとしている新しい友人かのようにその人に近づきなさい。 その状況に対するその人の見方や、あなたに対する期待について尋ねなさい。その人の感情やニーズや、より深い問題など、何であれ対立の周りにあるものを探求しなさい。
 「はい」「いいえ」で答えられる質問と対極にあるオープンエンドクエスチョンを用いなさい。 たとえば、「私のことを怒ってますか?」よりも、「先週の会合で私があなたにきつく言ったとき、あなたをどんな気分にさせましたか?」と尋ねなさい。 あなたの目的は、感情を表現するのが難しい人に開かれた対話をするのを助けることである。
 その人が何を中心的な問題であり、その影響は何であると思っているのか尋ねたあとで、あなたも自分の考えを述べることができる。 しかしそれは、反論としてではない。その状況の結果どう感じたのかや、気持ちがどう掻きまわされたのかについて話すのである。

 たとえば、「ジャック、私はこのことが私たちの関係にとってダメージになるんじゃないかって心配だわ。 大きな取引を獲得する機会に出会って、私も慌てていて、あなたもジョーンズ氏との仕事を進めているかどうか、 あなたに尋ねてみることを思いつかなかったのよ。 私たちの友情がこれからどうなるのか、心配だわ」といった具合にである。

それから、あなたが具体的に必要としていることを言うことができる。

 たとえば、「ジャック、私は私たちがこの問題に対してなんとか一緒に頑張って、公平な解決を見つけられるかどうか知りたいわ。 私はあなたに、私たちの友情が第一であることを知ってほしいの」といった具合にである。

 2人がそれぞれ表現されていなかったことを分かち合った後に、関係に距離ができてしまったことを悲しむような一般的な恐れの感情がそこにあるかどうかを見てみなさい。 これは、対立からチャンスへと転換する瞬間を提供するかもしれない。
 もし長く続いている人間関係であるならば、その肯定的な側面と、なぜあなたが相手を大切に思っているのかについて話し合ってみなさい。 このプロセスに進んで参加しようとしている相手のことを認めなさい。 承認のような単純なことが、よりスムーズな歩みを助けるのである。

感情がこみ上げてきたら、どうするか?

 例をあげるならば、友人のアリスが、あなたの体重について不適切なコメントを言ったとする。 あなたは即座に怒りを伴った心の痛みを感じた。思春期の頃からずっと両親があなたの体重について批判したり批評したりしてきたので、 あなたはありのままの自分を受け入れられてこなかったという悲しみを心の奥深くに抱いていたのである。 あなたが第一に望むべきことは、言葉で自分を防衛するニーズを武装解除することである。 次に、なぜあなたがあなた自身のことを声に出して表現しているのかを述べ、あなたの感情の引き金となった経験を客観的に(非難や判断や批判を差し挟まずに)話しなさい。

 「アリス、あなたに伝えたいことがあるの。 昨日一緒にランチをしたときに私の体重についてあなたが言ったことについてなの。 私が何を食べるべきかとか、食べないべきかといった意見を聞いたり、私の体重の問題のために、誰も私に魅力を感じないわといったような意見を聞いたりすると、 私は引きこもり、人を締め出すようになってしまうのよ」といった具合にである。

 次に、あなたの感じていることやその理由を述べなさい(初めに怒りを、そしてもし必要なら、悲しみや恐れといったより深い感情を)。

 「私は怒ってるの。なぜって求めてもいないアドバイスをされたから。だけど心の底では、悲しみを感じているわ。 ありのままの私を受け入れてもらえず、体重の問題は、子どもの頃からずっと、傷つきやすい話題だったから。」

 もしあなたが自分の悲しみや恐れを表現することを選ぶなら、あなた自身の問題として自分の感情を受け止めること、 そして、そこから生み出された感情に対して自分に責任があることを認めることが大切である。 そうでなければ、あなたは犠牲者と振る舞うことになり、人はあなたが自分の責任を押し付けていると思うことだろう。 ある人の行動があなたの感情の引き金になるかもしれない。 しかしこの未解決な感情的な問題は、その出来事が起こるずっと前からあなたの心の中にあったのである。 その出来事は、あなたが心に抱いてきた痛みを無意識的に思い出させたのである。 責任を引き受け、あなた自身の感情を受け止めなさい。

 「この悲しみの感情は私の問題であり、何年も前から始まっています。 私はそのことに前より気づくようになっており、そのためそれをうまく取り扱うことができるようになっています。」

 最後に、この人間関係の中であなたが特に必要としていることを言いなさい。 自分を押し通すために人に罪悪感を与えて人を変えさせるという方法ではなく、むしろ、思いやりを持った結果、相手が自ら喜んであなたに対する自分の行動を変えたいと思うようなやり方で。 あなたが頼むことは、しばしば受容、承認、同意、注目を含んでいることであろう。

 たとえば、「アリス、私は、ありのままの自分を受け入れられる必要があるの。 誰かが私を変えようとしているんだという感覚を持たずにね。 私は欠点を思い起させられるのではなくて、時々、私自身の肯定的な側面を心から認めてもらう必要があるの。 これは、あなたが私のためにできることかしら?」といった具合にである。

 相手があなたが必要としていることを与えることができなくても、あなたの心を開いたままにしておくことが大切であると理解しておくのが重要である。 もしあなたが相手を締め出したり、受け身的あるいは攻撃的になったり、あるいはすっかり腹を立ててしまうならば、 あなたの頼んだことは押しつけがましい要求であったのだというメッセージを送ってしまうことになる。 その人は罪悪感を通して操作されていると感じるだろうし、対立が再びエスカレートしてしまうことだろう。 したがって、あなたはその人をありのまま受け入れなければならない。
 上にある言葉は、簡潔で要領を得ていて、わざとらしさもない。人を煽り立てるような対立的で批判的な言葉もない。 「あなた」という言葉も最小限にしか使われていなかった。この言葉は、思いやりを育むことを通して、対話を開く可能性を作りだしている。 あなたの経験や感情、ニーズについて相手を批判することなく客観的に話せば、相手はあなたが言わなければならないことを受け入れてくれる可能性が高くなることだろう。 攻撃や非難と受け取られる言葉は、相手があなたの話に耳を貸すことを妨げることだろう。
 言ってはならないのは、「あなたが私の体重でもっていつも私を判断するやり方が、私を怒らせるのよ」というような言葉である。 この文の「あなたが・・・いつも私を判断するやり方が」という部分は、相手の防衛を引き起こし、批判として受け取られる可能性がある。 「それってどういう意味! あなたが自分の食べているものをセルフコントロールしているようには見えないわ。 だから誰かがあなたに言ってあげなきゃならないのよ!」といった具合にである。 こんなふうに、これは対立へとつながり、結びつきや思いやりからさらにあなた方を遠ざけてしまう。

戒めの言葉

 あなたの経験や感情、ニーズを分かち合うこのやり方は、数回は効果的だろう。 同じ問題についてあなたの感情やニーズを分かち合うのが3回目になったときには、相手は「前にそのことは聞いたわ。もうやめにして!」と言うかもしれない。 もしあなたが自分の弱さを分かち合った後でも、相手が同じようにあなたを怒らせ続けるなら、その関係が続ける価値のあるものであるかどうか判断する必要がある。 あるいは、あなたが相手の行動を、その人を変えようとせずに受け入れられるかどうか、判断する必要がある。 もしあなたが相手を変えたいあるいは変えようとしながら、関係に留まり続けるなら、確実にさらなる対立につながることだろう。
 これはまた、なぜあなたが、人のある行動によって感情を煽り立てられ続けるのか、内面を見つめてみる良い機会でもある。 あなたの激しい感情的な反応は、ほとんどの場合、あなたのニーズや受容や承認や同意や注目の期待が満たされないときに活性化してしまう深い未解決の問題から生じていることを思い出しなさい。 あなたがあなた自身のニーズをどうやって満たしたらよいか学ぶ際に、外からの評価に頼る必要はないであろう。 それまで、自分の怒りや不幸のために、あなたが人を非難し続けるなら、あなたは自分の力を失い続けることになるであろう。

聞いてもらえないならどうするか?

 よく出会うありがちな状況は、人に話を聞いてもらえないということである。 あなたの客観的な経験や、なぜあなたがそんなふうに感じるのかを分かち合ったあとに、 相手はあなたが言ったことを認める代わりに、言い訳をしたり自分の行動を防衛したりすることによって反応するかもしれない。 もちろん、これはその状況を悪化させるだけであろう。
 相手が言い訳を始めたり、自分の行動を正当化しようとするなら、その人の防衛にブレーキをかけて、「私は今聞いてもらっているように感じられない。 ただ単に私がどう感じているかを認めてほしい。」のように述べる。
 もし相手が防衛を続け、あなたが感じていることを認めるのを拒むのなら、あなたが聞いてもらえていないことや、あなたがその人を批判しているわけではないことを繰り返し伝えなさい。 もし相手がまだあなたに耳を貸さず、あなたを認めないなら、あなたが聞いてもらえないことを怒っていること、そしてこの会話は終わりであることを告げなさい。 例として前の体重の問題から同じシナリオを使ってみよう。

あなた:私が何を食べるべきかとか、食べないべきかといった意見を聞いたり、私の体重の問題のために、 誰も私に魅力を感じないわといったような意見を聞いたりすると、私は引きこもり、人を締め出すようになってしまうのよ。 私は怒ってるの。なぜって求めてもいないアドバイスをされたから。だけど心の底では、悲しみを感じているわ。 ありのままの私を受け入れてもらえず、体重の問題は、子どもの頃からずっと、傷つきやすい話題だったから。

アリス(彼女自身を守るために割り込んで):私はあなたを心配していて、あなたにとっていいように気を配って言っただけよ・・・。

あなた(聞いてもらえていないのでだんだん怒って):アリス、私には言う必要があることがあるの。 あなたを攻撃したり批判しているのではないわ。単に聞いてもらっている感じがしないだけ。 どうして私がこんなふうに感じるのか理解してもらえている気がしないの。 私は自分を傷つけるような話をあなたに話したわ。私は自分が認められていると感じたいだけなの。

あなたが中立的な言葉を使って、アリスを攻撃したり批判しなかったことに気付きなさい。

アリス(イライラした調子で防衛的になりながら):私はあなたが言ったことはすべて聞いたわ!  私はあなたの友達になろうとしただけなのに、さんざん文句を言われたわ!

あなた(反撃したい気持ちから、自分自身を武装解除しながら):アリス、私は聞いてもらえず、理解してもらえなかったので、この会話を終わらせなければならないわ。 また別の機会に話しましょう。さようなら。

 そしてそれからあなたは出ていく。もし電話であったなら、受話器を置きなさい。

 このシナリオのなかで、あなたは終わりの見えない長々と続く口論に参加しないことで、 誰かのドタバタ劇に巻き込まれることを避けた。 アリスは、自分の行動に責任を取ることやただ単にあなたを認めることよりもむしろ、犠牲者の役割を演じるのだろう。 「聞いてもらっているように感じない」というこのやり方やそのバリエーションを使う機会は、たくさんあることだろう。 したがって、もし本当に相手に聞いてもらえないなら、相手との間に境界線を設定し、ドタバタ劇に参加しないですむよう向きを変えて出ていきなさい。

「対立をチャンスに変える」の要点

 これは7つのステップの中でもきわめて重要な部分である。 ここであなたは抑圧されているかもしれない感情を人が解き放つのを許し、その人がその感情の底にあるものを表現するよう励ます。 あなたは以下に示したスキルを用いて、対立を機会に変える。

そして、もしあなた自身が感情的に激してしまったなら

 あなた自身のことを声に出して言う勇気を持ちなさい。 けれども、状況を刺激しない中立的な言葉を使いなさい。

 あなたがステップ3のスキルを常に使うことができるなら、あなたは自分の人間関係が変化していくのを目にすることだろう。 相互の理解と思いやりによって、あなた方それぞれが新しい観点から相手を見ることになるだろう。 次の章、ステップ4「はっきりとさせる」では、誤解を避けることができるようになるために、互いの苦境をはっきりさせる術をあなたは身に付けることになるだろう。

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