人間関係のための救急蘇生法 C P R -対立の予防と解決のための7つのステップ

人間関係のための救急蘇生法

-対立の予防と解決のための7つのステップ

Step 7 行動を起こす

 この最後のステップまでに、相手の感情、ニーズ、問題としている点をよりよく理解することができるようになり、そうすることで相手に対する思いやりを感じやすくなっていることだろう。 おそらく、相手もあなたに対する理解が深まったことだろう。 本物の思いやりと誠実さがなければ、これまでに踏んだ7つのステップは単なる機械的で事務的なものになってしまうことだろう。 このプロセスが成功するかどうかは、情緒的な誠実さや弱さを通して互いの人間性に到達できるかどうかによって決まるのである。
 最後のステップはシンプルなものだ。つまり、解決策に同意することを通して、共通のゴールを作り上げることである。 これは行動に移す時であるばかりではなく、ステップ2のコアトレーニングのすべてのスキルとツールを日常生活で活用してみる好機でもある。 そうすることによって、あなたの人生からもめごとや対立が少なくなっていくことだろう。

知っているだけでは不十分である。それを活用しなければならない。
やる気があるだけでは不十分である。やらなければならない。
             -ゲーテ

 『突破口を開くためのたぐいまれな会話 Extraordinary Conversations for Breaking Results』の著者パトリック・オニールは、 自ら前に向かって進む行動プロアクティビティとは、人間関係と課題の双方を等しく前に進めることであると定義している。 もし一方が他方より重んじられるならば、対立が起こる。 人間関係のスキルに乏しい課題指向型の人は、目標を達成するためには人を押しのけて進む傾向がある。 当然のことながら、この種の行動のために、利用されたとか重要ではないと感じさせられた不幸な人が生まれてくる。 課題よりも人間関係に重きを置く人は、概して目標達成に失敗するためにフラストレーションを感じる。 したがって、もしあなたが、一方が他方よりも重要であると思うなら、自ら率先して声を上げ、関係しているすべての人に声をかけ、彼らが怒り出す前に問題を解決することが重要である。 人間関係は、会って、聞いて、互いを理解することだけでなく、共通のゴールを見つけ、それをやり遂げようとすることで強化されるのである。

自ら前に向かって進む行動プロアクティビティの話

 私の教え子のひとりとの間に起きたある出来事を話そう。フレディは20代前半の若者である建設会社のCEO(最高経営責任者)のアシスタントになった。 数週間そこで働くうちに、上司が威圧的で人をイラつかせる人間であることがわかった。 実際、過去2年間で多くの人がフレディのポジションに就いたが 皆、この上司と仕事をするのは無理だと不平を言い辞めて行った。
 このCEOのリーダーシップスタイルは、脅しと威嚇を通してやる気にさせるものであった。 仕事に行くことを考えるだけで怖くなり、フレディの勤務成績はガタ落ちとなった。 ストレスは身体の病気を引き起こし、風邪をひいたり痛みを伴う消化器の病気をしたりした。 オフィスから離れていても、不安、緊張、いら立ちを感じるようになった。
 フレディはこれ以上のこき下ろしや屈辱的な態度には耐えられないと思い、人事課に電話をして係りの人に明日会社を辞めると言った。 それから彼は私に電話をしてきて、自分の置かれた状況と辞める決心について話をした。 私はフレディに、自分の上司に対して、彼が今どのように感じているかや、彼のおかれた状況の結果や、有能な社員でいるために彼が何を必要としているかについて話したことがあるかと尋ねた。 フレディは、上司にはまだ話していないと答えた。
 私は彼に、辞める前に上司に伝えた方がよいと勧めた。そうでなければ、この件から彼が学んだことは、困難な状況からは逃げるということだけになってしまう。 逃げることで、フレディはチャンスをものにするという自信や、上司に吸い取られてしまったパワーを取り戻すという機会も失うことになってしまう。 フレディは、そうすることにとても緊張を覚えていたが、上司に話すことに同意した。
 翌朝、CEOに時間を少しいただけないかと頼むと、CEOはつっけんどんに「ここに来い、何の用なんだ!」と答えた。 フレディの手のひらは汗ばみ、胃はキリキリ痛んだ。彼は「声を荒げられると期待に沿えていないのだと思って萎縮してしまいます。 僕はびくびくしながら働いています。有能な社員になりたいですし、自分の最高の力を発揮したいのです。 僕が良い仕事ができるように、もう少し穏やかな声で話しかけていただけないでしょうか。 これが僕が言いたかったことのすべてです」と声に出して言った。
 すると驚いたことに、上司はフレディの気持ちを理解して謝罪した。それからCEOは自分の感じているストレスや会社を経営するうえでのプレッシャーについて彼に話した。 2人は心を開いて30分ほど話し、互いにこれまでより気持ちが通じるようになった。 会話が終わるころ、フレディは、上司に、自分たちの間ではすべてがうまくいっていたと思うかと確認した。 上司はうまくいっていたと答え、部下に対する自分の話し方を改めると約束した。
 フレディはそうしようと思えば簡単に会社を辞めることもできたし、そうしたとして、誰も彼の決心に疑問を差し挟む者はいなかっであろう。 しかし、彼は、ほぼ間違いなく、権力の座にいる人は自分の権力を乱用するものだという思い込みを抱いてしまったことだろう。 そしてフレディにとっては、何も学ぶことはなく、また、すでに自尊心に傷を負った状況からは何も得るものはなかったことだろう。
 その代わりに、否定的な考えを脇に置いて上司のところに行き、評価も批判もせずに自分の気持ちを伝え、自分が何を必要としているかを話した。 その結果、上司と健全なつながりを築き、上司を人として前よりも良く理解できるようになった。 一年後、オフィスの雰囲気は明るくなり、社員の生産性も上がり、フレディには、もはや上司に反発する気持ちはなくなり、むしろ上司とともに働いているんだと感じられるようになった。
 たった一人で勇気をもって絶対的権力に立ち向かい、仕事の雰囲気をまるごと変えた。 フレディはまた、自己成長の素晴らしい機会を経験した。 怯えながらも自分の気持ちとニーズを声に出していうことで、一時は不可能と思われた人間関係を深めることができ、自尊心を獲得できることを彼は学んだ。 確かに、フレディがCEOに立ち向かった時点で、CEOはフレディを首にすることもできたことだろう。 しかしもしそうだとしても、フレディの自尊心は無傷のままでそこを立ち去ることができたであろう。

一人の人間が別の人間を愛する。それはおそらく私たちに託された最も難しい課題だ。 究極の課題であり、最後の試練であり証明である。他のあらゆる営みは単にそのための準備にすぎない。
              -レイナ― マリア リルケ

 多くの人にとって、これは勇気のいる取り組みである。自分を応援してくれる人、親友とか家族とゆっくりと始めてみなさい。 練習して自信をつけるにつれて、自分にとってもっと困難な人に対しても自分の思いを表現することができるようになることだろう。 この本を読んだ後は、これらのすべてのスキルとツールを活用できているかどうかを確かめるための参考書として、定期的にこの本を活用しなさい。

「人間関係のための救急蘇生法 C P R 」の要点

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