おわりに
人間関係のための救急蘇生法は真に対立を解決する作業のほんの表面に触れたに過ぎない。
もっと重要でさらに大きな解決を要するのは、すべてのトラブルの根底にある内なる対立(すぐに責めたり、非難したり、罰しようとする、
あるいは、偏見的、暴君的、もしくは自己卑下的な私たちの内なる声や態度)に取り組むことである。
口論や論争の形をした対立、または行動の結果としての対立は常に存在する。
しかし、困難な状況の中でも自分の行動を見つめる能力には、人生を変えるほどの経験をするぐらいの作用がある。
あなたの心の底からありのままのあなたを引き出すのは誰で、またどのような状況なのだろうか?
あなたがどのように人と交流し、どのように困難に立ち向かうのかは、あなたの内なる状態の反映でもある。
もしあなたが否定的に話したり、考えたり、行動するなら、人の行動や状況の影響を受けて、あなたは自分の内なるパワーを放棄することになってしまう。
昔の子供への言い伝えで、以下のようなものがある。
棒と石は私の骨を折るかもしれないが
言葉は決して私を傷つけない。
もしあなたが相手にパワーを奪われてしまわないならば、これは真実と言える。
事実は、不幸なことに多くの人が言葉や行動に傷つき、思いやりの欠けた無条件反射的な反応をしてしまう。
パワーを失ってしまわないように、あなたの感情の底には何があるかを見つめてみなさい。
もし誰かの行動や言葉があなたをコントロールしているのであれば、内なる対立に注意を払ってみるべきだ。
だれかの罪のないコメントでさえ、あなたの人生のどこかの時点で経験された抑圧、不当、感情的苦痛を思い起させる個人攻撃となるかもしれない。
この本の最初で述べたが、人生の初期に感情的にやけどを負うと、その後、激しい対立に尻込みするか、あるいは身体的または言語的攻撃で報復をするかのどちらかになる。
7つのステップの中で述べてきたスキルは、私たちを試練へと導く。
しかし、どこかの時点で、私たちの内なる対立に取り組まなければならない。
思いやりの欠如、狭量さ、自己を正当化したいというニーズ、完璧さを追い求めること、人にコントロールされやすいこと、
自分のパワーを誰かに投げ渡してしまうこと、何がこれらを引き起こしているのか? 自分が十分でないとか、愛されていないとか、不十分であるという恐れは、内なる対立を表している。
恐れが私たちを支配し、私たちから選択肢と思いやりを奪い、妥協に走らせるのである。
恐怖の中で生活していると、欠点を隠したり守ったりするというパターンに陥り、本来の自分らしさが失われてしまい、ありのままの自分でいられなくなる。
このことによって、多くの人が望むような、親密な関係をもつとか人とつながりをもつとかができなくなる。
こうしたより深い問題が取り扱われない限りは、どんなに多くのコミュニケーションスキルやツールを持っていても何の役にも立たないことだろう。
それらは内的葛藤からの影響力を止めるのに決して十分な力にはなり得ないないだろう。
いかなる状況にあろうとも、寛容さ、思いやり、創造性を体験するとき、私たちは自由の本当の意味を見つけてきた。
もはや外的な出来事に縛られることなく、人生におけるより健全な選択をすることができるのである。
マハトマ・ガンジーは、自分の最善の仕事のいくつかは投獄中になされたと述べた。
監獄の壁はこの男の精神を押し潰すことはできなかったのである。ガンジーもまた若い頃、ある大きな内的葛藤に取り組んだが、それは自己評価の低さであった。
そしてそれは演説への恐怖として表れた。しかし、彼は自分の人生の目的は恐怖よりも偉大なものであることを知っていた。
彼は自らの恐怖に挑み偉大な演説家になった。真実は、私たちは自分の恐怖よりも偉大であり、自分が正しいと思う行動に打ち込めば、変化が訪れるということである。
私の人生そのものが、私のメッセージだ。
-ガンジー
ネール元インド首相は、ガンジーの教えの本質は、恐れを抱かないことであると述べた。
ガンジーは、強者は復讐をしない、そして勇気ある者とは対話に参加できる者のことであると説いた。
自ら健全な内面的な対話に従事することによって、私たちがまず自分自身のうちで非暴力者になると、人に対して偽りのない思いやりを差し伸べることができるようになり、
やがて、人々、文化、国々の間に、建設的な対話を作り上げることができることだろう。
究極的には、これは人格形成に関わる作業である。知は力だと言われているが、知は時に利己的なものとなり誤って用いられる可能性がある。
真実の力は人格の強さにあり、正直、思いやり、勇気、親切心、高潔さ、そして礼儀正しさ、これらを持った人の中に存在する。
それは人に力を与え、信頼を築き、尊敬を集める。これらの特質を常に持ち続けることによって、内的調和を達成することができる。
それはまた、破壊行為を引き起こしていた無駄なエネルギーを解き放ち、真に重要である物事の創造に方向転換させる。
私は、この本が対立解決のもっと深い領域への入口であることを期待する。つまり、内なる葛藤からの解放への入り口となることを期待する。
もしあなたに、自分の人生で満足できていないところがあるならば、それは変化を起こせという呼び声である。
それは、あなたが取って来た行動パターンがどのようなものであろうとも、あなたにとってはそれが窮屈なものとなってきたということを意味する。
それがたとえ、あなたのコミュニケーションの方法を変えることや、あるいは内的対立を探求することを意味していようと、それに挑戦することで恐怖に立ち向かいなさい。
多くの人が弱者に見られることを恐れて、躊躇したり、この深淵な作業を避けようとするがそれは錯覚である。
内的対立の原因を見つめながら、恐怖の中で立ち上がり声を出して真実を述べるには強くあらねばならない。
もしそうでなければ、すべてがうまくいっている振りをしながらも、膨らむ不満が自分の活力を奪うのを感じることだろう。
恐怖に溺れず、惑わされず、それを人間的な成長の糧としなさい。
我々はどのよう平和を探しているのでしょうか? 私は本物の平和のことを話しているんです。
この地球上で人生を生きるに値するものにするたぐいの平和のことです。
私たちの時代だけでなく、すべての時代の平和のことです。
私たちの問題は人間が作りだしたものです。ですから、それらは人間によって解決され得るはずです。
結局、私たちの最も基本的な共通項は、我々は皆、この小さい惑星に住んでいること、そして、同じ空気を吸い、子供の将来を大切に思い、そして我々は皆、死を免れ得ないということです。
-ジョンF. ケネディ