人間関係のための救急蘇生法 C P R -対立の予防と解決のための7つのステップ

人間関係のための救急蘇生法

-対立の予防と解決のための7つのステップ

Step 4 はっきりさせる

 この本は、多くの点で感情を正当に評価し誠実なコミュニケーションを行うことを中心に展開しているので、このプロセスをもっと詳しく見てみることにしよう。 行動を起こす前に、相手の感情や関心をはっきりとさせ認識することが重要である。 なぜなら、多くの対立は誤解の結果始まるからである。 明らかにするための最良の方法は、その対立について相手が表現した感情、ニーズ、問題としている点を、あなたが聞いた通りに繰り返すことである。 もしあなたが繰り返したことにその人が同意しなければ、どんな誤解も即座に解決できる。

たとえば、「クリス、私があなたの給料支払い小切手に入金するのを忘れたので、とても怒っているらしいわね。 それは家賃を払うのに必要だったのよね。それで小切手が不渡りになってしまったものだから、あなたは50ドルの罰金を払わなければならない。 それがとってもあなたを困らせてしまって、私をもう信頼できなくなったというのも頷けるわ」といった具合にである。

 この言い方は、保身も言い訳も、相手が体験したことを否定することもしていない。 単に相手の感情を受けとめ、聞いたことを言い換えているだけである。
 言ってはならないのは、このようなことである。「私があなたの給料を振り込むのを忘れたから、あなたは私に腹を立てているのね。 でも、そんなことはたいしたことじゃないわ。明日振り込んで借金を清算するわ。そんなに怒らなくってもいいじゃない」。 こんなふうに言うことで、相手の実際の体験と感情を否定することになる。 したがって、人に対して、そのように感じるべきではないと言うのは避けるべきである。 たとえば、「泣かなくてもいいでしょ。そんなにひどい状況じゃないわ。」 このような言い方は信頼という問題を脇に置き、無視しており、相手には、聞いてもらえなかったという気持ちと怒りが残ることになるだろう。
 相手が十分に聞いてもらえたと感じた時は、振る舞いが穏やかになるのでそれがわかる。 そして、あなたはその状況をどのように感じているかを次のように言うことができる。

たとえば、「クリス、私の間違いのせいで私たちの友情に傷がつきそうね。 これからは、重要な仕事を私に任せられないと思っているのではないかと心配なの。 あなたの期待を裏切ってしまったわね。でも、私はあなたとの信頼を取り戻したいの」といった具合にである。

 もしあなたが過ちを犯してしまったら、それを認めて心から謝罪し、引き起こしてしまった損害を返済することだ。 この場合なら、50ドルの罰金を友人に払うということを意味する。 もし、あなたが即座に全額を払えないとしたら、ステップ5に進み、この問題に見合った解決法を見つけなさい。 そこで見つけられないとしたら、謝罪と支払いがこの問題を解決する唯一の解決法なのかもしれない。

たとえば、「クリス、約束したことをきちんとやっていなかったことを謝るわ。 あなたは私のことを信用してくれていたのよね。罰金のための50ドルを明日あなたに渡すわ」といった具合にである。

 しかし謝罪する際には注意しなければならない。しょっちゅう謝罪してばかりでは、謝罪はその意味を失ってしまうからである。 人はよく、遅れたことを謝るが、その後も何度も同じことをくり返す。態度に変化がなければ、信頼も信用も損なわれてしまう。 また、多くの人が、申し訳ないと思ってもいないのに「ごめんなさい」という言葉を使う。 人をなだめるために空しく意味のない言葉を発するよりも、正直で誠実な態度をとることの方が、あなたがやったこと、あるいはやらなかったことについてあなたがどのように感じているのかを示してくれる。

たとえば、「自分がやると言っておきながらやらなかったので、今僕はビクビクしている。 僕たちの友情を損ねてしまったのではないかと心配なんだ。僕には、自分の限度を超える約束をしてしまうという悪癖がある。 友だちに好かれたくて、友だちを助けたいと申し出てしまうんだ。でも、約束が果たせないと、結局は自分が望んでいたのとは反対に、皆を怒らせてしまう。 これが、僕が克服しようと必死になっているパターンなんだ」といった具合にである。

 自分の正直な気持ちを述べることで、人はあなたのことを人間として見てくれるようになる。 またそうすることで、対立を起こす自分のパターンに気づき、将来起こりうる同様の状況を防ぐことができるようになる。
 この対立に終止符を打つ前に、あなたがここで価値のある学びをしたということ(安易に責任あることを引き受けないようにするといったような)や、 また、将来友人のために何か引き受ける時にも、この教訓を真摯に活かすつもりであることなどを、相手に伝えることが大切である。こうすることで、信頼回復のプロセスが促進される。

たとえば、「僕は大切な学びをした。それは軽い気持ちで約束をしないということ。 僕が君との友情を大切にしていることを君に知ってほしいんだ。 これからは、やると言ったことは、僕は必ずやるよ」といった具合にである。

 人は、言葉よりも行動で判断されるということを肝に銘じておきなさい。将来、あなたがやると言ったことをやらなかったら、あなたの言葉と約束は空虚なものになってしまう。 人間関係に不信感が生まれ、これまでなしてきたことがすべて台無しになってしまう。
 これまで見てきたような問題は、お金にまつわるものはほとんどないということを付け加えておかなければならない。 お金はもちろん重要だ。しかし通常は、もっと深い感情的な要素が絡んでいる。友人によって気持ちが傷つけられ、自分の価値が否定されるということこそが重要な問題なのである。 そのため、この問題を解決するには、その人の奥深い部分に潜んでいる尊重されていないという感覚を認めなければならない。
 時には、あなたが謝罪している対象が、あなたが本当に信頼できる人かどうかを確かめたくて条件を並べ立てたり、あなたに試練を与えたりするかもしれない。 「どうなるか見てみみよう」とか「実際にこの目で確かめたら信じるよ」といったようなことを言うかもしれない。 あなたは試されていると感じ、すぐにさらなる対立が生まれてしまう。この人との間に、気まずい、緊張に満ちた空気が張り詰めてしまうかもしれない。
 こうした緊張した関係を受け入れるよりも、むしろ、こうした状況は自分にどんな影響を及ぼしているのか、そしてこのようなやり方では不愉快だということを述べることによって、相手に敬意を払いながらも自己の境界線を設定した方が良い。

たとえば、「信用という問題が起きているのはわかります。 ですが、僕は自分が信頼に値する人間であることを証明するために細心の注意を払っています。 そのため、あなたといると緊張してしまうのです」といった具合にである。

 どのように感じているかを話すことによって、あなたの内に生じた緊張を解き放つことができる。 試されているとか、決められたやり方で行動しなければならないと思うと腹立たしく思うことだろう。 境界線を設定することによって、それを避けることができる。
 相手が求めていることに応えられない、あるいは応えたくない時もあるであろう。 そうした場合には、相手に妥協したり、しぶしぶ相手の要求に応えようとしたりするのではなく、できないと言った方が良い。 なぜできないかについて言い訳をしたり理由を説明したりする必要はない。 そうした返答が、一種の妥協とみられてしまうかもしれないからである。
 相手の感情、ニーズ、問題としている点を確認した後、相手が望んでいるものは自分には提供できないと言いなさい。 あなたにできることは、一緒に他の解決策を見つけることである。どうやってそれをやるかは次のステップで述べることにしよう。

たとえば「テリー、君がどうして給料を上げてほしいかは理解できるが、今はできないんだ。 だけど、君が同意してくれるなら他の解決策を探してみるよ」といった具合にである。

「はっきりさせる」の要点

 はっきりさせなければ、あなたも相手も互いに十分に理解し合えず、結果として、得られたはずの思いやりを断念せざる得ないことになる。 したがって、理解が生まれるまで関わりを続けなさい。

 以上ではっきりとさせることができたので、ステップ5「解決策を見つけ出し、その先へ」に進むことにしよう。

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